司法試験目指してわっほいするブログ

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CLS'14刑法

問題PDFはこちら

http://www.chuo-u.ac.jp/academics/pro_graduateschool/law/orientation/selection/past/pdf/past_2016_02.pdf?1500818811303


第1.ラッカースプレーでAの自動車に落書きした行為
 甲が行った当該行為によって、フロントガラスやリアガラスを含む車体全体にペンキが付着してしまっている。その結果視界が妨げられ運転に危険が生ずる状態に至っていることから、もはや安全な運転行為をすることが事実上不可能であることから、自動車の効用を害しているといえる。したがって「損壊し」たと認められる。以上より、器物損壊罪が成立する。

第2.Aの胸部付近に前蹴りを入れた行為
 甲が行った当該行為によって、Aは自動車の後部バンパーに後頭部を打ちつけて動かなくなっている。かかる行為は「人」(204条)を気絶による生理的機能障害を生じさせてることから「傷害」したと認められる。以上より、傷害罪が成立する。
 もっとも、甲はAがバタフライナイフを激しく振り回しながら近づいてきたことから当該行為に及んでいる。そこで、甲の行為につき正当防衛(36条1項)が成立し違法性が阻却されないか。
 「急迫不正の侵害」とは、不法な法益侵害が間近に迫ってきていることを指す。本件におけるAの当該行為は不法な有形力の行使であるから「暴行」罪(208条)にあたることから不法である。また、Aは顔面を蒼白にする程度の興奮状態に至っていることから、平常な判断能力があるとは認められず、いつ刺されるか予期できないことから法益侵害が間近に迫っていると評価できる。
 もっとも、Aの当該行為は先行する甲の器物損壊行為が原因でなされていることから、自招侵害として「急迫不正の侵害」が認められないのではないか。
 この点、正当防衛が認められている根拠は不正な侵害に対する防衛行為は社会的相当性が認められることにある。したがって、①相手方の侵害行為が挑発行為に触発された一連一体の行為の事態とい、②侵害行為が挑発行為の危険性の程度を大きく超えるものでなければ、それに対する反撃行為は社会的相当性を欠き、正当防衛は成立しない。
 本件において、Aは甲の挑発行為に対して、「お前、俺の車に何してんだ!」と怒声を上げた直後に侵害行為を行っていることから、①相手方の侵害行為が挑発行為に触発された一連一体の行為であるといえる。また、挑発行為は器物損壊罪に該当する行為であるのに対して、侵害行為は暴行罪に該当する行為である。後者は人の身体に対する法益侵害に対して、後者は物に対する法益侵害にすぎないことから、②侵害行為が挑発行為の危険性の程度を大きく越えたと評価出来る。したがってなお社会的相当性を欠いているとは評価できないことから「急迫不正の侵害」は認められる。
 「自己...の権利を防衛するため」とは、防衛の意思を指すが、正対不正の関係において被侵害者は正常な判断能力を有していないのが通常であるから、当該機会を利用して積極的に加害する意思が認められない限り防衛の意思は認められる。本件において、Aの侵害行為に対して甲は、このままではやられる、刺される前に先制攻撃しかないと考え、当該行為に及んでいることから、積極的加害意思を有しているとは認められないことから、「防衛の意思」は認められる。
 「やむに得ずした行為」とは、防衛行為の相当性を指すところ、バタフライナイフを振り回しながら近づいてきたAの胸部付近に前蹴りを入れた行為は武器対等の原則を考慮しても甲にとってはかかる行為しか法益侵害を回避する手段はなかったのであるから相当性は認められる。
 以上より正当防衛が成立し、違法性が阻却される。

第3.Aの頭部や腹部を足蹴りにした行為
 甲が行った当該行為により、Aに多数の外傷を負わせていることから「傷害」罪が成立する。
 もっとも、当該行為が前述の防衛行為と一体として判断できないか。この点、防衛行為の一体性の判断は、時間的場所的接着性を前提として、侵害の継続性、防衛の意思等の事情を踏まえて行う。
 本件では、甲は同じフロアに停めてあった自分の自動車に戻った後、数分後戻ってきていることから、時間的場所的接着性は認められる。しかし、Aは最初に行った前蹴り行為の結果、頭を自動車のバンパーに打ち付け、気絶していることから、もはや侵害の継続性は認められない。また、甲はAが気絶していることを認識した上で、さらに痛めつけてやろうと思い当該行為に及んでいることから、防衛の意思も認められない。
 したがって、正当防衛は認められない。
 以上より、傷害罪が成立する。なお、第1行為につき正当防衛が成立する以上、どちらの行為によってAが死亡したか不明な場合、疑わしきは被告人の利益にする原則から、死の結果を甲に帰責することは出来ない。

第4.罪数
以上より、①器物損壊罪②第1行為の傷害罪、③第2行為の傷害罪が成立し、②は不可罰となり、①と③は併合罪(45条)となる。

以上