一罪一逮捕一勾留の原則
抽象的でなかなか掴めない論点だという印象があります。
一罪一逮捕一勾留の原則とは、同一の被疑事実に関しては、通常1回のみ逮捕・勾留ができることを指します。
そこから導かれるのは
①再逮捕・再勾留の禁止
②重複逮捕・重複勾留の禁止 です。
両者の差異は逮捕・勾留の効力が及んでいる間に同一の被疑事実でもう一度逮捕・勾留をしているか否かにあります。
具体的には、
先行する逮捕・勾留の効力が及んでいないときに、同一の被疑事実で、もう一度逮捕・勾留した場合は①再逮捕・再勾留 となり、
先行する逮捕・勾留の効力が及んでいる間に、同一の被疑事実で、もう一度逮捕・勾留した場合は②重複逮捕・重複勾留 となります。
解説書などでよく見かける順番ですと、最初に一罪一逮捕一勾留があり、その後に再逮捕・再勾留の問題となりますが、私見としましては、
再逮捕・再勾留の基準を重複逮捕・重複勾留においても流用できるか
だと考えるのが問題の所在としては良いと考えています。
捜査法演習にも同趣旨の記述があります。
現実的に捜査の対象とならなかった事実に関して再度の逮捕・勾留を許す基準と、既に捜査の対象となった事実に関して再度の逮捕・勾留を許す基準と同位置で良いのか否かの問題
まずは再逮捕・再勾留までの論理を追っていきます。
簡略化して概観を述べると、再逮捕・再勾留までの論理は、
①令状主義
②事件単位の原則
②'手続きの1回性の原則
③一罪一逮捕一勾留の原則
④再逮捕・再勾留 となります。
①令状主義
「強制の処分」のところで書いたとおり、令状主義の内容は裁判官による事前審査にあります。そして、「強制の処分」の対象は個々の権利に対するものですから、その前提となる事件の対象は被疑事実ごとになされます。特に33条のとおり逮捕の場合は「理由となっている犯罪」を明示する必要がありますから、なおさら被疑事実ごとになされます。
②事件単位の原則
令状主義がこのとおり「犯罪」ベースに令状審査をする以上、逮捕・勾留の要件及び効果が事件(=被疑事実)ごとに決められるという原則は、令状主義の要請として当然の帰結となります。
②'手続きの1回性
刑事訴訟法は逮捕・勾留につき厳格な期間制限を課しています(いわゆる48h,24h,72h)。このことから被疑者の人権保障の見地から、できる限り身柄拘束を少なくする要請が令状主義から導かれます。
③一罪一逮捕一勾留の原則
事件単位の原則、1回性原則を考慮して導かれるのが一罪一逮捕一勾留の原則となります。
以上のことは令状主義から導いていますから、「一罪」とは実体法上の一罪を指します。個々の犯罪事実とすると、併合関係と同様に処理できてしまい、不当な身柄拘束の蒸し返しに繋がり、1回性の原則に反します。
④再逮捕・再勾留
原則としては、上記一罪一逮捕一勾留の原則があるため、再逮捕・再勾留は認められません。
もっとも、それでは、一度逮捕・勾留され、満了後釈放された後に新証拠が出てきた場合に捜査機関が何もできなくなり、これはあまりにも無能でしょう。
厳格な身柄拘束期間の制限がある以上、その間に証拠を集めることは困難であることからも再逮捕・再勾留を認める必要性があります。
そして、刑事訴訟法199Ⅲは「同一の被疑事実について」「前に逮捕状の...発付があつたとき」と、再逮捕を前提とした条文があること
また、新たな証拠がみつかり、新たな身柄拘束の必要性が生じれば、それは不当な身柄拘束の蒸し返しには該当しない ことから再逮捕を許容しても良いのではないかとなります。
もっとも、これだけでは、期間制限がないに等しいものとなってしまうから、限界づけが必要です。
そこで、身体拘束による不利益と、再逮捕の必要性とを比較衡量して、前者を後者が上回った場合にのみ、再逮捕を許容できる との規範が立ちます。
再逮捕の中身、再勾留の可否については、次回に。